当事者研究ワークシート

2011年に精神の不調を感じてから約5年が経ちました。これまで当事者としてつまづいた色々な経験が、自分だけ ではなく誰かの役に立つのではないかと思い、2015年から「当事者研究」の研究をはじめました。今まで私が試行錯誤してきた「自分のつらさの研究」を元に、みなさんにも活用していただけるようワークシートを作りました。どなたでもお使いいただけますので、ぜひ活用してください。


「妖怪式」当事者研究のポイント5つ


1、病気を「妖怪」に見立ててみる

あなたのつらさは、本当にあなたのせいなのでしょうか?病気を自分の欠点だと思うのではなく、「病気=妖怪に見立ててみよう」というのが、私の提案です。

2、病気(=妖怪)の特徴を知る
あなたの中の妖怪はどんなときに悲しんだり、暴れたり、怒ったりしますか?妖怪のことを想像することで病気(=妖怪)の特徴が見えてくるはずです。
また、その妖怪はどんな姿をしていますか?絵に描いてみたり、名前をつけたりして、キャラクター化してみましょう。心のつらさは目に見えず現実にはとても重苦しいですが、「見える化」することでずっと近づきやすくなるはずです。

3、病気が酷くなる状況を知ることで、そのきっかけや病気の本質を知る
症状が出たときが、病気のことを深く知るチャンスかもしれません。つらい、くるしい、と思うとき、どんな出来事でそうなったか、自分の感じるつらさはどんなものか、自分の心の中の妖怪に「質問」をしてみてください。きっと何か手がかりが見つかるはずです。

4、自分を見つめるのではなく、眺める。
病気とのおつきあいには「知恵」と「ユーモア」が大切です!自分のことを深く知ることはとても大事なことですが、この当事者研究では自分の良さや悪さを知ることを目標にしません。その代わり、自分の中の「つらい感じ」を妖怪に見立て、色々な質問を通して「対話」することを目的にしています。

5、原因探しを最終目標にしない
心がつらくなった背景には環境や遺伝的要因など様々な要素があるかもしれませんが、この当事者研究の目標は、心に住み着いた妖怪と、上手に「これからも」付き合って いく方法を見つけることです。原因となる何かがなくなれば自分が「治る」かもしれない、と思うこともありますが、治ることを焦るあまり、自分自身のつらさ を無視してしまうと余計に辛くなるばかりか、孤独が襲ってくることもあるかもしれません。ゆっくり行きましょう。

以上の5点を大切にしながら、私なりにまとめたのがここから下のワークシートです。

具体的に3つのステップに分かれているので、段階に応じたワークシートを使って病気を眺めてみてください。
さぁ、はじめましょう!


Step1「妖怪さん、こんにちは。」

まずは素材を集めよう・・・パターン研究シート

Step2「妖怪さん、あなたはだれ?」

素材のクリーニング・・・まとめシート

妖怪(=病気)といっしょにいてみよう・・・妖怪インタビュー


Step3「妖怪ゲットだぜ!」

妖怪を目に見える形にしてみよう・・・妖怪図鑑を作ろう
妖怪はどんなキャラクター?

妖怪が暴れるために必要なもの

妖怪と付き合うためのアイディア


「妖怪式」当事者研究について雑感



今まで双極性障害、気分循環性障害、ADHD、など色々な診断を受けてきましたが、自分の気持ちのつらさの質はずっと変わらず、つらい日々を過ごしていました。

診断を受ける前の思春期から自傷行為があり、自分のつらさは自分に欠陥があるからだとずっと思って自分を責め続けてきました。

しかし、学校という枠から出て自由に人間関係を作れるようになってから、同じようなことで悩んでいる友達ができ、自分のつらさについて話をする機会が増えたことで、長い時間をかけてすこしずつ自分のことについて理解することができるようになっていきました。

それと同時に、自分を責めることで自分のつらさに本当の意味で目を向けることからは逃げていたのではないかと気づきました。

「このつらさにも『生まれた理由』がきっと何かあるはずだ」と。
それからというもの、心のケアの方法について様々な本を読んで自分の心の状態をなんとか理解できないかともがき、少しずつ自分のつらさを客観視することができるようになりました。環境の変化もあり状態も改善していき、今はかなり安定しています。この安定は実に15年ぶりの気持ちです。
病気を妖怪という個性と人格のあるものとして認識することで、自分 自身とは切り離して考えられるようになり、病気の症状と自分の人格を一緒にしないで済みます。( 当事者研究で先駆的なべてるの家では、統合失調症の症状を「お客さん」と表現しています。)

どうかみなさん、自分のことを責めることなく、自分の中の「妖怪」とゆっくりと対話してみてください。治ることが目標ではなく、自分の中のつらい部分に耳を傾けて、ケアしてあげること。もしかしたらそこが病気と闘うための新しい一歩になるかもしれません。
(この研究は、2015年夏にべてるの家で行われている「べてるまつり」に私が実際に参加し、たいへん感動したのをきっかけにはじまりました。また、双極性障害で作家、建築家など多彩な活動をされている坂口恭平さんにワークシートの一部をお使いいただいたことで、たいへんはげまされ研究を進めることができました。影響をくださったみなさまに感謝します。)